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2022年6月7日

【JCNEコラムVol.8】すべてはNPOの信頼性を高めるために 樽本法律事務所代表弁護士/NPOのための弁護士ネットワーク創設者・理事 樽本 哲(JCNE監事)

すべてはNPOの信頼性を高めるために

  2013年4月、当時市ヶ谷にあった日本NPOサポートセンターの研修ルームで、NPOの法的課題をテーマにした勉強会がひっそりとスタートした。NPOが直面する様々な法的課題について、NPOと弁護士がともに学び、実践につなげることを目的とした勉強会だ。最初に選んだテーマは「今日から始めるNPOのコンプライアンス」。筆者が講師を務めた。参加者は10名にも満たなかったと思う。先月ようやく40回目の勉強会が開催された。参加者数は延べ1000人くらいにはなっただろうか。年に4、5回のスローペースだが途切れずに続いている。
  勉強会で取り上げてきたテーマは、NPOの契約実務、ガバナンス、理事の責任、遺贈寄付、個人情報・プライバシーの保護、中間支援団体によるNPO支援の在り方、広報の法的トラブル、著作権、商標、労務管理と人事評価、情報発信とアカウンタビリティ、NPOと政治活動、企業とNPOの協働、会計不正の防止、スタッフのメンタルヘルス、NPO法人の終活など、多岐にわたる。
  弁護士が一方的に話すのではともに学ぶことにならないため、発表はNPO関係者などのゲスト講師と弁護士のふたり一組で行うのが基本だ。新型コロナの影響でオンライン開催になるまでは、日本財団の会議室などを借りて開催していた。NPOの実務に必ずしも明るくない弁護士にとって、勉強会後の打ち上げまでが学びの場だった。そろそろリアルでの開催を再開したい。

  勉強会を立ち上げた弁護士らは、半年後の2013年11月に任意団体を設立した。筆者が所属するNPOのための弁護士ネットワーク(N弁)だ。勉強会を核とした弁護士のコミュニティで、NPOを支援したい弁護士の人材プールとして機能している。同ネットワークのウェブサイトには、「法令や契約を順守するNPOなどの民間非営利組織が社会から尊敬される存在として信頼を集め、より一層活躍できる社会を実現する」と書かれている。これには2つ意味がある。一つは、どんなに良い活動をしていても、法令や契約をおろそかにするNPOは社会から信頼は得られないということ、もう一つは、NPOが社会の尊敬と信頼を集めて活躍の場を広げることができれば、日本社会はもっと良くなるメッセージだ。この思いは設立当初から変わらない。

  筆者が監事を務めるJCNEは、「組織評価」を通じてNPOに組織運営の見直し・改善の機会を提供するとともに、「第三者認証(グッドガバナンス認証)」の仕組みによって信頼性・透明性の向上に努めるNPOを公表、見える化し、NPOが社会から信頼を獲得できるように後押ししている。N弁と方法論は違っても、目指すところは同じだ。今後も監事として、JCNE自身のコンプライアンス、ガバナンス向上に貢献していきたい。

  令和4年5月31日、岸田内閣が掲げる新しい資本主義のグランドデザインと実行計画(案)が示された(新しい資本主事実現会議第8回)。その中で「非営利組織においては、事業実施主体として限界があり、資金調達の柔軟性が低いことから、大規模な課題解決が難しい」との指摘があった。オーナーシップが否定される非営利組織においては、リターンやキャピタルゲインで資金拠出者に報いることができないため、資金調達の選択肢が限られるのは事実である。しかし、非営利組織だから大規模な課題解決には向いていないとの指摘には異を唱えたい。非営利団体でも、他の非営利団体や企業とタッグを組むことで大きな課題解決に挑戦することは可能だし、成果を生むこともできる。寄付などの善意の資金を財源に社会的企業を育成し、課題解決を図りつつリターンを得る道もあろう。
  リスクマネーを投下しての大規模な課題解決は、次なる問題を生むこともあることを忘れてはならない。NPOだからこそ生み出せる価値があると信じたい。
【 樽本法律事務所代表弁護士/NPOのための弁護士ネットワーク創設者・理事 樽本 哲(JCNE監事)】

プロフィール

2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
企業や非営利組織の経営上の法的課題に対して、専門的なサービスを提供するほか、善意の資金循環を促進するための仕組みづくりに取り組む。2019年に企業の株主優待品や防災備蓄品の寄付のコーディネートを行う(一社)ギビングフォワードを有志で設立した。2020年に富裕層・経営者らのフィランソロピーを支援するサービス「キフタント」を創業した。一般社団法人全国レガシーギフト協会の共同代表として健全な遺贈寄付の普及啓発にも取り組んでいる。

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