ボランティアからNPO、NPOからソーシャルビジネス時代へ
僕自身がこの世界に足を踏み入れたのはNPO法が施行になった時期と同じ1998年。それまで「ボランティア活動」と表現されることが多かった取り組みが、それを機会に「NPO」と表現されることが一気に増えた記憶がある。そして最近では「NPOを始めたい」という相談よりも、非営利・営利問わず「ソーシャルビジネスを始めたい」という相談を頂くことが増えている。
組織基盤の強化や社会課題の解決のため、積極的なマーケティング活動に取り組む非営利組織が増える一方、自らの存在理由について社会課題の解決を前面に打ち出す営利企業、スタートアップ企業が増えており、少なくともマインドの面では双方の垣根がほとんどなくなっている。営利でも非営利でもともに「ソーシャルビジネスの担い手」としてメディアなどで扱われることが増え、私が頂く取材や登壇も、NPOについてよりソーシャルビジネスについての依頼が増えたと実感する。
SDGsの捉え方、取り組みも随分変化したように思う。つい最近までSDGsといえば主に大手企業がCSRの一環として、本業とは切り離したところで小規模・小予算で取り組むことが多かったと思う。しかし、最近ではSDGsを会社経営の中心に位置付け、社長自らが株主総会で取り組み方針を述べる場面も多く見られる。
社会性、公益性の高い事業の担い手について、古くは行政が行うべきものであるという考えが主流であったところ、NPO法施行から20年以上の間に、非営利組織が公益事業の主体に加わり、さらには多くの営利企業までもが名乗りを上げるようになったのは大いに歓迎すべきことある。
株式会社にとって「株主利益の最大化」は相変わらず重要であるが、それだけでなく「従業員、顧客、コミュニティなどステイクホルダ全体の幸福、利益」を目指すことが珍しくなくなりつつある。多くの消費者が企業の発信するメッセージによってその企業から買うかどうかを決定し、多くの就職活動生が企業の社会的スタンスによって就職するかどうかを決定するようになった。ついに「ソーシャルグッドを追求すればちゃんと利益が出る」、「利益追求とソーシャルグッドの両立は可能」という時代を迎えたと言っていいいのではないか。
どのくらい社会をよくしたかが問われる時代に
私が英国にて世界最大級の寄付サイトであるJustGivingと出会ったのが2008年。その頃、日本国内非営利団体の年次報告書の表紙にはそのまま「年次報告書」や「活動報告書」と書かれていることが多かったが、イギリスでは多くの非営利団体の年次報告書には「インパクトレポート」と書かれてあった。「年次報告書は何のために作ると思う?既存寄付者に次の寄付をお願いするために作るんだ。寄付者は通常非営利組織の活動現場には来ない。だから自分の寄付が一体どのような形で世の中をよくしたのかを知りたいものなんだよ」と教えられたことが強く記憶に残っている。
あれから10年以上が経過し、日本の非営利組織の評価方法も徐々に変わりつつある。これまで行政や民間団体による助成事業における評価指標の多くは「情報を開示しているか」「不正なく、きちんとお金を使っているか」「人件費や家賃などの管理費が抑えられているか」といった点に重きが置かれていた。税金を使う、あるいは民間助成資金や寄付など「善意の資金」を預かる立場として、これらの評価項目はいずれも重要な視点であるが、「正しくお金はつかったようだが、その結果、本当に世の中はよくなったのか?」という根本的な問いについて答える必要があるのではないかという声が高まり、助成団体の評価項目に「社会をどう改善したか」という項目をソーシャルインパクトと称して盛り込むケースが増えている。また、寄付者からもそのような視点が求めるようになった。寄付者は「お預かりした資金は真面目につかわせていただきました」というだけで心は動かないし、寄付を継続してはくれない。「お預かりした資金を有効に活用することで、世の中をこのように改善しました」という報告によって初めて自分が行った寄付の意味を理解し、満足し、次なる寄付へと繋げていただけるのだと思う。
【(特活)ドットジェイピー 理事長 佐藤 大吾(JCNE理事)】
プロフィール
NPO法人ドットジェイピー 理事長/ 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授 |